詳細資料_平成21年度
(県民ボランタリー活動実態調査 調査委員会委員長 宮垣 元)
県民ボランタリー活動実態調査は、昭和59年度より定期的に実施されてきており、今回で第7回目となりました。この間、ボランティア・ブームや阪神・淡路大震災におけるボランティア活動の貢献、特定非営利活動促進法や介護保険法の施行、あるいは近年の経済不況など、ボランタリー活動への社会的認識の高まりの一方で、その活動を取り巻く社会環境は大きく変わってきたといえます。ここでは、こうした変化も念頭に置きながら、今回の調査結果の特徴的な点についてまとめることにします。
なお、前回調査(平成16年度)と今回調査とでは有効回答率に違いが出ていますが、これは、調査方法を社会福祉協議会などによる配布・回収から直接郵送方式による配布・回収への変更があったためです。また、前回調査までは調査対象団体の全数調査であったのに対し、今回調査ではその母集団からの無作為抽出による標本調査に変更されました。
一方、質問項目は、前回調査と比較可能な項目はなるべく踏襲しつつ、新たな項目も付け加えられました。こうした違いがあるため、必ずしも厳密な比較とはなりませんが、その変化を概観するには十分なデータであると思われますので、以下では必要に応じて前回調査との比較も行っていきます。
まずはじめに、今回調査から、平成21年現在における県内のボランタリー活動の全体像を描き出したいと思います。
ボランタリー活動は様々な分野で行われていますが、今回調査では、「福祉の増進」「子どもの健全育成」「まちづくりの推進」「保健・医療の増進」「地域安全」で前回調査より5ポイント程度、あるいはそれ以上の増加がありました。
その中でも、最も中心となる活動分野でみると、「福祉の増進」が全体の半数以上(「保健・医療・福祉」としてまとめてみると6割以上)を占めており、また唯一5ポイント以上の比較的大きな増加がみられます。
このことは活動方法の傾向にも表れており、「サービスを提供したり、人材を派遣する」が前回調査より大幅に増加しています。
また、活動を行う地域についてみると、同一市区町村内で活動する団体が全体の約7割を占めています。
こうした結果から、県内のボランタリー活動は、「保健・医療・福祉」分野で、「地域における対人サービス系の活動」の比重が前回調査に対し高まってきているという状況がうかがえます。福祉や健康に関する地域における支え合いの活動が増加している反面、県内のボランタリー活動の多様化は必ずしも十分に進んでいるとはいえないとも考えられます。
団体の発足年については、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災以降に発足した団体が全体の約3分の2を占めていますが、その中でも平成12年(2000年)以降に発足した団体が半数近くを占めるようになりました。阪神・淡路大震災のあった平成7年は、「ボランティア元年」ともいわれ、多くの活動者を増やした年でもありますが、今日活動を行う団体には震災の年を直接のルーツとしない団体も多く含まれるようになってきました。
個々の団体の特性に目を転じると、全体の約3分の2の団体で活動者が20人以下の組織規模であることがわかります。一方、100人以上の規模の団体は1割程度です。
また、活動を行う方々の中心層を性別でみると、「ほとんどが女性」とした団体が全体の3分の2近くを占めており、「ほとんどが男性」とした団体は1割に満たないという現状があります。同じく年齢別でみると、50歳以上が全体の8割以上を占めており、その中でも65歳以上が全体の4割を占めています。
こうした傾向は、団体の代表者についても同様にみられ、性別では男性の割合が若干高まるものの、年齢別では50歳以上が約9割を占めています。一般に、ボランタリー活動の多くを女性、かつ高年齢層が担っているという現状はよく指摘されることですが、その状況は今日の兵庫県においてもあてはまっているといえるでしょう。
組織運営の実態に関しては、9割近い団体で利用者や活動者の名簿があり、約8割の団体で決算報告書や収支報告書を作成していることがわかりました。ただし、事業計画書や規約・会則を作成している団体は全体の約半数で、特に法人格を有していない団体で低くなっています。
一方で、ニュースレターや会報、ホームページなどの情報発信を行っている団体は全体の 2割程度かそれ以下です。このことは、活動を積極的に社会に発信しようとする団体が少ないともいえますが、むしろ、それを(したくても)できていない団体が多いという現状も背景にあると考えられます。
継続的に活動を行うには人とともに資金も必要です。このことを財政状況としてみると、支出額が年間100万円以上の団体は1割に満たず、10万円未満の団体が全体の約半数を占めていることがわかります。
収入については、会費や入会金のある団体が全体の約7割で、ひょうごボランタリープラザの助成金を得ている団体や、行政、社会福祉協議会からの助成金を得ている団体がそれぞれ6割前後となっている一方で、事業収入のある団体は全体の4分の1程度となっています。
多くの団体で、活動に必要な資金は自分たちの会費、もしくは助成金に支えられているという現状が浮き彫りになりました。ボランタリー活動を安定的に行うにあたりこうした財源が必須となっている現状とともに、事業収入などを含めた財源の多様化についての課題が残っているともいえます。
次に、ボランタリー活動を行う団体の変化についてみることにしましょう。前述したように、活動分野については「保健・医療・福祉」分野で、「地域における対人サービス系の活動」の比重が前回調査から高まってきていますが、個々の団体の規模についてはどうでしょうか。これについては二つの特徴があるといえます。
まず一つ目は、活動者数の減少傾向に関するものです。活動者数の増減は、1年前との比較で「変わらない」とする団体が全体の半数以上を占めていますが、3年前、5年前と年数が経つにつれ活動者が減った(「減っている」と「やや減っている」の合計)とする団体の割合が高まる傾向にあります。
このことは、活動者が増えたとする団体の割合が年数を経てもあまり大きな差がないことに比べ特徴的です。また、こうした傾向は、利用者よりも活動者の方でより顕著に表れており、活動者を継続的に確保することの難しさを示しているともいえます。
二つ目として、こうした活動者の傾向に対する利用者数の増加です。利用者の増減については、1年前との比較で4割程度が「変わらない」としていますが、活動者と同じく年数が経つにつれ利用者が減ったとする団体の割合が高まる傾向にあります。ただし、増えた(「増えている」と「やや増えている」の合計)とする団体も3割あり、これは活動者が増えたとする割合よりも高くなっています。つまり、活動者よりも利用者の増加の方が大きいということがいえそうです。
このことに関連して、活動者や利用者の参加・利用のきっかけについてみると、活動者の約6割がすでに活動している人からの紹介で、行政や社会福祉協議会からの紹介は2割程度、その他、チラシや会報、ほかの団体の紹介などは2割に満たないという現状があります。
利用者についても、すでに活動や利用をしている人からの紹介が6割弱で、行政や社会福祉協議会からの紹介は4割弱となっています。いずれも「口コミ」による参加・利用が多いことには変りありませんが、利用者が行政や社会福祉協議会からの紹介が一定割合いることに対し、活動者の多くが口コミに頼っているという違いがあります。
活動者の継続的な確保が必ずしも十分でないなかで、その参加の多くをすでに活動している人からの口コミに頼っているという現状は、今後の活動の継続や拡大という視点からすると大きな課題だといえます。
活動者の確保という課題は、多くの団体が抱えている問題のようです。活動における問題点や課題についてに関する質問でも、全体の約4割の団体が活動者の数が足りないとし、また同じ割合で世代交代が遅れているとしています。これは、活動に必要な資金が必要であるとした団体よりも上回る結果です。
また、この他に課題としてあがっている項目についても、活動者の能力向上や活動のマンネリ化、そしてリーダーを支援する体制がないなど、いずれも組織運営の要である活動者の活力に関わる項目が続き、いかに担い手に関わる問題が大きな課題となっているかを示す結果となりました。特に、10年以上同じ人が代表を続けている団体も2割近くあり、これらのことから、組織が長らく同じ構造のまま運営されている可能性が高いという実態もみえてきました。
以上のように、今日のボランタリー活動団体の抱える課題は、活動者の新規参加や世代交代が必ずしも十分行われていないという、いわば組織構造に変化がないことからくる苦しさといえそうです。
こうした状況を変えるには、新しい活動者の参加が必要となってきますが、前述したように、参加は口コミが主流であり、また積極的な情報発信が十分に出来ていないという現実もあります。全体の約3割の団体では、組織の拡大を志向し、またそのために活動者を増やしたいと考えていますが、以上のような現状を考えると、それを効果的に行えるような工夫を考えることも必要となりそうです。
新規参加や世代交代を視野に入れた組織運営を行うには、口コミだけでなく、新しいネットワークを組むことも必要となるでしょう。また、様々な制約を抱えるなかで、効果的に活動を行うにも、やはり他の組織との協力関係が必要となります。
こうした他団体との連携・協働については、半数以上の団体がそれを行っていると回答しています。ただし、その内容には変化がみられ、前回調査ではイベントや行事等の共催の割合がもっとも高かったのに対し、今回調査では情報交換や交流会を開催の割合が最も高くなっています。
また、連絡会、協議会を設置したとする団体は今回調査が前回調査を上回っているのに対し、サービスを補完したとする団体は逆に前回調査を下回っています。
総じて、活動のレベルでの役割分担や連携の機会が減った一方、コミュニケーションの機会が増えたといえます。このことは、連携や協働の効果にも表れており、他のグループ・団体との交流がさらに広がったとする団体の割合が高くなった反面、一団体あたりの負担が減ったとする団体の割合は低くなっています。
行政や社会福祉協議会との協働の現状はどうでしょうか。これらとのつながりの内容についてみると、最も多いのが助成金、補助金を受けているとした団体でした。次いで、情報やアドバイスを受けている、活動の場の提供を受けている、研修機会の提供を受けていると続き、協働事業を提案し実施していたり事業委託を受けたりしている団体は2割に満たないという結果になりました。
このように、行政との関係は、資金や情報などの支援を受けることが多く、協働での事業実施などを行う関係には十分至っていないということがわかります。もっとも、これらには地域差もあり、阪神北や東播磨では協働事業を実施している割合が他に比べ高くなっています。また、事業委託を受けている割合では東播磨が、政策立案過程に参画している割合では但馬が相対的に高くなる結果となりました。
協働に関する要望については、手続きの簡素化や事務的負担の軽減を求める割合が高くなっています。協働の推進には、団体の事務処理能力の向上が求められるだけでなく、行政側もこうした点への配慮が必要といえそうです。
最後に、企業や商店街などとの協働については、活動分野による違いが大きいものの、過去も含めて実施しているとした団体は全体の3分の1程度でした。ただし、これについては、任意団体とNPO法人の差が大きく、NPO法人は約半数が過去も含めて協働を行っているとしています。こうした違いは、その組織規模によるところも大きいのでしょうが、法人格の有無が協働の実現性に影響していることも考えられるでしょう。
以上、今回調査の結果を整理しましたが、これらから以下の四つの点を強調しておきたいと思います。
まず第一に、ボランタリー活動の多様性の問題です。前述したように、県内のボランタリー活動は、「保健・医療・福祉」分野で、地域における対人サービス系の活動の比重が前回調査に対し高まってきているようです。こうした分野において、地域における支え合いの活動が増加していることは非常に価値の高いことといえるでしょう。その一方で、豊かな市民社会という観点からすれば、様々な分野の活動が多元的に存在し互いに協働することもまた重要です。
今回調査では、子どもの健全育成やまちづくり、地域安全などの分野の割合も高くなっており(複数回答)、そうした素地はあるともいえますが、今後は、個別分野の充実に加え、こうした多様性の芽をどのように発展させていくかも考えていく必要があると思われます。
第二に、活動の継続性に関わる新たな参加者の問題です。今回調査からは、新たな活動者の参加や世代交代が必ずしも進まず、長らく同じ組織構造の中で活動を続ける団体も少なくないことが推察されました。一方で、活動者の参加のきっかけは口コミが主流であり、また情報発信も必ずしも十分に行えていないという実態があります。口コミによる参加が多いことは、それだけ信頼ある人を介したネットワークがあるということを意味しますが、同時にそうした既存のネットワークの外にいる人は関わりづらくなるという問題もあります。
新しい人、特に若者や男性といったこれまで必ずしも参加率が高くなかった層の参加を促すには、新しいネットワークを構築したり、情報発信の工夫をするなどの対応が求められます。
第三に、助成金をはじめとする行政や社会福祉協議会などのサポートの重要性です。様々な分野の活動を醸成したり、組織の継続性を支えたりするためには、日常の活動以上の負担やコストが発生することが考えられます。
現状では、6割前後の団体で助成金を収入源としており、日々の活動が、会費とともにこうした財源で賄われています。財源の多様化は今後の課題であるにしても、現時点ではこうした助成金がいかに重要なものとなっているかがわかります。活動に伴う経費や交通費なども活動者が負担する団体も少なくない(約4割)中で、「皆で支えるしくみ」をどのように構築するかを改めて検討する時期が来ているのではないでしょうか。
そして第四に、こうした個々の貴重な活動を、全体として相乗効果を発揮する必要性です。連携や協働の実態は、一方で団体間の情報交換の機会は増えながら、それが実際の活動を共にする機会は増えていないというものです。
これは、役割分担が進む方向にあるとみることもできますが、そうであれば個々の活動がタコツボ型にならず、有機的な連携ができるよう横のつながりを活かしていく必要があります。行政や社会福祉協議会との関係も、支援を「受ける」関係が多く、協働事業の提案実施や政策立案過程への参画などはまだ乏しいという実態があります。これはボランタリー団体側と行政側の双方が考えるべき課題です。県内にはこれだけの豊かな活動が存在しているのですから、他のボランタリー団体や行政、あるいは商店街・企業などの主体の違いに関わらず、同じ課題をともに考え、取り組むことで、個々の活動をこれまで以上に活かせるような関係構築が必要ではないでしょうか。